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函館地方裁判所 昭和33年(ワ)203号 判決 1959年9月14日

原告 富樫昭博

被告 金沢庄一郎

主文

被告は原告に対し金二七万二三五〇円及びこれに対する昭和三三年六月六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(一)  原告訴訟代理人は主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。

(二)  原告訴訟代理は請求原因として、被告は運搬業を営む者であり、原告は訴外亡富樫時枝のただ一人の子である。而して原告の父である右訴外時枝は昭和三〇年四月頃より被告に人夫として雇われ貨物自動車の上乗の業務に従事していたものであるが、同年九月二二日午後四時二〇分頃、函館市所在函館ドツク株式会社構内から同市高盛町光成中学校々庭まで貨物自動車に乗り土砂運搬の業務に従事中、途中該自動車より転落し死亡したものである。右訴外時枝の死亡は業務上の死亡であるので、労働基準法に基き被告は同亡訴外人の唯一の子である原告に対し右亡訴外人の平均賃金一日金二九七円三五銭の割合による千日分の金二九万七三五〇円の遺族補償金を支払うべき義務あるものである。然るところ被告は原告に対し見舞金として金二万五千円の支払をなしたのでこれを控除した遺族補償金二七万二三五〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和三三年六月六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであると述べた。

(三)  被告訴訟代理人は答弁として、原告の主張事実中、被告が運搬業を営む者であること、原告が訴外亡富樫時枝の子であること、原告主張の頃より被告が右訴外人を雇傭していたこと、原告主張の日時に右訴外人が原告主張の土砂運搬中の被告所有貨物自動車より転落死亡したこと、右訴外人の平均賃金が一日金二九七円三五銭であつたこと、被告が原告に対し見舞金二万五千円を支払つたことは認めるがその余の事実はこれを争う。以下述べる如き理由により被告人は遺族補償金を支払う義務は存しないものである。即ち当時被告は函館市所在函館ドツク株式会社構内より同市光成中学校々庭まで石炭灰の運搬の仕事をしていたものであるが、昭和三〇年九月二二日は被外亡時枝は非番であり休日となつていたところ、何故か運搬現場である函館ドツク株式会社構内に出勤したものであり、現場係員より非番である旨を告げられて仕事をせず、頭痛と称して寝ていたが、被告所有貨物自動車が光成中学校々庭に向け出発するにあたり、帰宅する目的で右貨物自動車の石炭灰の上に飛び乗り出発したものである。右の如く訴外亡時枝が当日貨物自動車に乗つていたのは帰宅するため便乗したものであり、しかも当日は非番であつたものであつて、業務に従事していたものではないから同人の死亡は業務に従事中の死亡ではない。のみならず右訴外亡時枝が死亡したのは、進行中の貨物自動車より飛び下りたところ、飛び損ねて頭部を強打し死亡するに至つたもので、右は全く同訴外人自らの過失によるものであり、被告側には何らの過失もないのであるから被告には遺族補償をなすべき義務はないものである。以上の理由により被告には何ら遺族補償義務はないから原告の本訴請求は失当であると述べた。

(四)  原告訴訟代理人は被告の右主張事実はすべて争うと述べた。

(五)  立証<省略>

理由

(一)  被告が運搬業を営む者であり、訴外亡富樫時枝は昭和三〇年四月頃より被告に人夫として雇われていたこと、同年九月二二日午後四時二〇分頃、右訴外人は函館市所在函館ドツク株式会社構内より同市高盛町光成中学校々庭へ土砂運搬中の被告所有貨物自動車より転落死亡したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(二)  そこで原告は右訴外時枝の死亡は業務上の死亡である旨主張し、被告これを抗争するので以上右の点について検討をすることとする。いずれも成立に争いのない甲第二号証、同第四号証、同第五号証、同第六号証(成立に争いのない乙第四号証と同一)、同第七号証(成立に争いのない乙第六号証と同一)、同第八号証、乙第三号証、証人西村照彦、同藤原春雄の各証言、原告後見人富樫ハルの供述に弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外亡時枝は被告に雇われて貨物自動車に上乗して、土砂の積載や荷下し等の業務に従事していたものであり、本件事故発生当時頃は被告は三台の貨物自動車を使用して函館市所在の函館ドツク株式会社構内より同市高盛町の光成中学校々庭へカーバイトかすその他の土砂等を運搬する仕事を行つており、訴外亡時枝も貨物自動車に上乗して右作業に従事していたものであるが、たまたま本件事故発生当日たる昭和三〇年九月二二日は運転手の訴外藤原春雄が仕事を休んだので訴外亡時枝は午前八時頃函館ドツク株式会社構内の現場へ出勤したが上乗の仕事がなく、当時現場の責任者であつた訴外金子武美の指図で貨物自動車に土砂等を積載するための段取りや積載等に従事し、当日は風邪気味とかで多少健康にすぐれない状態のようではあつたけれども午後三時頃までとも角も右作業に従事し、当日の最後の貨物自動車にカーバイトかす等を積載して、右訴外金子及び訴外久保誠太郎は助手台に乗り、訴外金谷新一と訴外亡時枝は荷物台のカーバイトかすの上に乗つて右現場を引揚げ、荷下し現場である光成中学校に赴くべく同所を出発したこと、当時、函館ドツク株式会社構内の荷積み現場で土砂等を積載したり、その段取り等に従事している作業員は右構内への出入は自由に出来なかつたため最終の貨物自動車に乗つて同現場を引揚げ、荷下し現場である光成中学校々庭で荷下しを手伝つたりして一日の作業を終るのが例であつたこと、右の如く貨物自動車に乗つて函館ドツク株式会社構内の現場を出発した訴外亡時枝は、途中自宅附近で一且停車して貰つて弁当箱を置き、更に荷台の上に乗つて光成中学校々庭の荷下し現場へ向つたが同日午後四時二〇分頃該自動車が目的地である光成中学校々庭前附近の道路上にさしかかつた際、突如該貨物自動車より過つて転落、頭部を強打して頻死の重傷を受け、直ちに函館市千歳町青函鉄道局函館鉄道病院に運ばれたが午後五時頃同病院で死亡するに至つたものであること、以上のような事実が認められるのであつて、右認定の事実によれば訴外時枝の死亡は労働基準法七九条にいわゆる業務上の死亡に該るものと認めるのが相当である。右認定に反する証人久保誠太郎の証言、被告本人金沢庄一郎の供述は前顕各証拠に対比しこれを措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。被告は、訴外時枝は当日は非番であつて作業に従事していたものではなく、過つて現場へ出て来たが非番であつたので帰宅するため本件自動車に便乗していたものであるから同人の死亡は業務に従事中の死亡ではない旨主張し、証人久保誠太郎の証言、被告本人金沢庄一郎の供述は一応右主張に副うものであるけれども、右各証拠がにわかに措信し難いことは前に判断したとおりであつて、他に右主張事実を肯認するに足る証拠はなく、却つてその然らざることは前記認定のとおりである。従つて被告の右主張は採用しない。

(三)  次に被告は、訴外時枝の死亡は自身の過失によるものであるから被告には遺族補償の義務はない旨主張し、訴外亡時枝に過失のあつたことは前に認定のとおりであるけれども、労働基準法による遺族補償は業務上死亡した労働者の収入に依拠していた遺族の生活を保護した規定と解せられ、労働基準法七八条が休業補償及び障害補償について労働者に重大なる過失がある場合についての例外を規定しているのに反し、同法七九条の遺族補償については何らかかる規定のないことに照らしても、労働者の死亡が自らの過失に基因するものであつても、業務上の死亡である限り、使用者には遺族補償をなすべき義務あるもので、死亡労働者の過失の有無はそれだけでは何ら右義務の存否にかかわりはないものと解するのが相当である。従つて訴外時枝の死亡が同人の過失に基くものであつたとしても、これによつて被告の遺族補償義務に何らの消長を来すものではないから被告の右主張は理由がない。

(四)  次に原告が訴外亡時枝の子であることは被告もこれを認めるところであり、成立に争いのない甲第一号証、原告後見人富樫ハルの供述によれば右亡訴外人の妻富樫キヱは昭和二三年八月二五日死亡しており、又原告以外には子供はいないこと、原告は訴外時枝が死亡した当時同訴外人の収入によつて生計を維持していたものであることが認められるから、原告は労働基準法施行規則四二条により遺族補償を受ける権利があり、被告は原告に対し労働基準法七九条所定の遺族補償をなすべき義務あること明らかである。そこで補償の金額について検討するに、訴外亡時枝の平均賃金が一日金二九七円三五銭であることは当事者間に争いがないから、その千日分、金二九万七三五〇円が被告が原告に対し支払うべき遺族補償金であるといわなければならない。

(五)  以上認定のとおりであるから被告に対し、右金額の範囲内である金二七万二三五〇円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明白なる昭和三三年六月六日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求はその理由がある。

よつて原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木史朗)

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